File6:森泉晶

「そーそー・・・だから殺されちゃったんだよ。野口秋が病室で。極秘だったんだぜ、ここに入院してんの。凶器も持ち去られてるし守衛室の監視カメラも消去されてるしさァ。おまけに床までご丁寧にモップかけやがって・・・」病院で、笹山。
「分かったわ・・ちょっと待ってて。」
「雨宮君・・・野口秋が病室で殺されているのが見つかったそうよ・・・」伊園犯罪研究所の一室で、携帯を片手に、磨知。
「そう・・・」パソコンを前に・・・雨宮。
「・・・」
「・・こっちも見つけたよ、深爪好きの男。」

~数十分後、伊園犯罪研究所~
パソコンの前に雨宮、その両隣に磨知と笹山。
「森泉晶。二年前三光女子学園に教育実習生として三週間だけ赴任。その間に生徒を対象に数回アンケートを行ってる。それが学園・職員用のコンピュータに残ってて・・・その中に3つばかり爪に関する質問があった。」
「なになに・・・学園祭についてのアンケート・・・後夜祭でファイヤーストームをやったほうがいいか?あなたは他人から過ちを指摘されたときカッとくる事があるか?なんだこりゃ?」
「こんな感じで心理テストを紛れ込ませてあるんだ。」
「それで生徒たちの中から特定の心理傾向のある生徒をピックアップしていたのね。」
「何だよ特定の傾向って。」
「暗示にかかりやすい生徒。そしてマインドコントロールで自殺させる・・・」
「それで失敗した三人目を殺したんだ?だろ!オレって天才!?」
「・・・たしかにもっともらしい推論だけど・・本当にそうかな?・・マインドコントロールで自殺させる奴がわざわざ・・・」
「何言ってんだそいつしかいないだろもう!よっしゃァ!とりあえず任意で同行させるぞォ!」
「私も行くわ。」
「・・・」席を立つ、雨宮。
「雨宮君、あなたはここに残ってもらうわ。これは所長命令よ!」

~磨知の車、乗っているのは磨知と笹山。~
「あれ?雨宮は?」
「ちょっとね・・気になることがあって出歩いて欲しくないのよ。」
「ふ~ん・・・そーいや雨宮もマインドコントロールで自殺させる奴がどうとか言ってたけど・・・催眠術で自殺させるのって無理って言うよな。そういう生存本能を麻痺させんのって・・・」
「ST法って知ってる?」
「うんにゃ?」
「人格改造セミナーで用いる集団でのマインドコントロール。1人で死ねなくても皆なら死ねるのよ。皆で死ねば怖くないってね・・・」

~同時刻、美和の高校~
「あ~あ森泉ねェ。知ってる知ってる。なぁ~んか新興宗教みたいなサークルやってたって噂よ。ガッコの方も薄々気付いてたみたいだけどォ・・・なに?そんでお姉ちゃんたち森泉逮捕しにいったわけ?」
「まぁそんなところかな。」さっきと変わらず、パソコンを前で携帯を片手に、雨宮。
「それは大いなる無駄って感じね。だって森泉晶ってさァ・・・一ヶ月前に死んじゃってるよ。」

~同時刻 森泉のアパート 部屋の前で磨知、笹山、大家~
「え・・・死んだ・・・って森泉晶がですか?」
「ええ・・なんでも交通事故で・・即死だったらしいですよ・・家賃は今月分も振り込まれてるんで部屋はまだそのままにしてあるんですけど・・・」そう言って大家は部屋の扉を開ける。
部屋には栄養ゼリーの袋など、まだ生活臭が残っていた。
そしてそこで二人が見たものは、
ルーシー・モノストーン

~同時刻:伊園犯罪研究所の一室~
「もォしもォ~し?ちょっと雨宮君聞いてるゥ?」
「ああ、悪い・・ちょっと待ってくれ。」先程と変わらない状況だが、今は雨宮はパソコンを操作している。アイバンクの登録者リストを検索している。無論、ハッキングして、だ。
「もォ~何なのよォ?」
検索が終わり、その名前が出た。「登録No19564 森泉晶」
「!・・・」
壁のメモに目をやる、雨宮。美和が調べた高校の深爪をしている生徒をピックアップしてものだ。
メモ
「!・・・美和!」
「・・ええェ~!?今すぐゥ?」

~数十分後:とあるマンションの前~
「ここが残りの深爪女の家か・・・」雨宮。
「だ。セーカクにはマンション、だ。」美和。
「美和はここで待ってろ。マチに連絡しといたからすぐ来るよ・・・あと警察もな・・・来たら号室教えてやってくれ。」
「え~何よ~う。これから面白くなりそ~なのにィ。」
「後でキャトルのチョコレートムースケーキ死ぬほど食わせてやるから。」美和の目の色が変わる。
「超~マジ?」
「超マジ。」
~同時刻:同マンションの一室~
「そろそろ始めよう・・・私たちの番よ・・・」
「やっぱりやめよう?私達・・・天使になんてなれないよ・・・」
「何言ってるのよ今さら!?」
「先生死んじゃったし・・・私達野口まで殺しちゃって・・・私・・・もう何だか怖いよ・・・」
「森泉先生は生きてるわ!!私たちより先に天使になって!現に先生のメッセージがいっつも留守電に入ってるじゃない!野口の病院だって教えてくれたでしょ!」
『ピンポーン』呼び鈴が鳴る。
「!」
「・・・誰なの?」
「分からない・・・」ドアの外にいるのは雨宮だ。
「刑事かも・・・」
「やっぱりばれちゃったのよ・・・もーだめ・・・」
突如、電話が鳴った。留守電が起動する。『はい篠原です。ただいま出かけています。メッセージをどうぞ。』
そして聞こえてきたのは声ではなく、音楽だった。
「これ・・・森泉先生の好きだった・・・ルーシー・モノストーンの歌・・・」
ドアの外では雨宮が立っている。そこへ、警官が二人やって来た。
「笹山刑事からの連絡で参りました。ここですか?」
「ああ。」
そして、部屋の中では、篠原がレンガを池田に渡した。
「さあ・・・池田はこれで身体中の骨を砕くのよ・・・私は串刺しになって・・・死ぬ。」部屋は五階である。
池田は、自らの足に躊躇うことなくレンガを振り下ろした。そして、苦痛の声も。
それは、ドアの前に立っている雨宮と警官にもはっきり聞こえた。
「何をしている!開けなさい!」ドアを叩きながら、警官。
「管理人に言って鍵を・・・」
「そんな暇があるか!貸せ!」そういうと雨宮は警官の腰から拳銃を抜いた。
「どいてろォ!」そう言うと、鍵穴に向けて三発、撃った。鍵穴が壊れるや否や、雨宮はドアを蹴り、中へ入る。警官二人も続く。
部屋に入り、目に飛び込んだのは、レンガで自分の足を砕いている少女
と、ベランダの手すりに上っている少女。
「よせェェェ!!!」雨宮が叫ぶと同時に、少女の身体は手すりを離れ、そのまま・・・電柱に、刺さった。
「・・・・・」手すりに拳を打ちつけて、苦い表情で池田の方を見る。
「君・・・やめなさい!君!!」警官の制止も全く聞こえていないようで、痛みで涙を流しながらも血だらけになった自分の足にレンガを打ちつけるその姿はおぞましいものがあった。
雨宮は電話から流れている歌に気付く。(この歌・・・確かルーシー・モノストーンの・・・)
その様子を、別の場所から、見ていた者が二人。
「はは・・・すげーなカラス。見ろよ・・・なれたじゃんな?天使に。」電柱に刺さった背中にカラスが止まった死体を眺め、笑いながら隻眼の男は言う。
「ああ・・・黒い天使にね・・・」
「カックイイ~」口笛を吹きながら、隻眼の男は、白髪の男と共に笑った。



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